爽やかな読後感が残る青春小説「地図にない島」

昭和時代に活躍した作家、井上靖氏の「地図にない島」という小説がとても印象に残っております。

新婚旅行先の海で、男主人公はヒロインを乗せて手漕ぎボートを操るのですが、誤ってボートが沖へ流されて遭難しそうになります。

これに嫌気がさしたヒロインが旅行をボイコットし、実家に帰ってしまうという処から物語が始まります。

ヒロインにぞっこんだった男主人公は、その後何度か説得を試みるですが、ヒロインは「私の理想の人は、この人ではない様な気がする」と、あくまでも自分の理想を追い求めようとします。

旅行先で花嫁に逃げられた新郎とのレッテルに打ちのめされそうになりながらも、日々のサラリーマン生活を送る男主人公の前に、やがて新たな女性が現れます。

しかし、紆余曲折を経てその女性も瀬戸内の小さな島に独り移り住む事を決意。

地図に載っていない小さな島から男主人公宛に送られた手紙で物語は締めくくられます。

登場人物はいずれも、他人を恨む事を知らない様な善人ばかりですが、それでいて明日に向かって一途に生きるひたむきな姿に好感が持てます。

それ故、爽やかな読後感があるのは確かです。

井上氏の他の青春小説もそうなのですが、この小説でも「結ばれないからこそ愛は永遠になる」というのが主なテーマの様です。

けれども氏は、決して恋愛のはかなさを強調しているのでは有りません。

むしろ明日を信じ、ひたむきに生きる若者に温かな眼差しを注ぎ、むしろ声援を送っている様にさえ思えるのです。

新聞記者出身の為か、井上氏の作品はいずれも物語の構成が非常に巧みです。

そして一つ一つの場面が詩情豊かで、かつ氏が画家志望であった事も手伝って色彩感覚にも秀でています。

詩情と色彩と登場人物の純粋な心とが上手くマッチして独特の世界が織りなされます。加えてストーリーが面白く、さすが大家と感服せざるを得ません。

昨今の文学界はサスペンスとかハードボイルド風が流行の様ですが、それだけにむしろ新鮮味が感じられると思います。

名作「氷壁」と併せて、若い方にぜひ読んで頂きたい一冊です。