トルストイの民話集にある、イワンのばか。このちょっと間抜けな題名に、以前は何度も読むのを途中で止めていました。でも改めて読んでみると、結局イワンはばかではないんだな~と感慨ひとしおでした。
イワンは、馬鹿が付くほどのお人好しです。”お人好し”という表現は、現在でもあまりいい意味では使われません。要領の悪い人、ダメな人というニュアンスがあります。
でも、いつからお人好しではいけなくなったのか?つくづく考えてしまうのです。気が優しくて欲が無いのは、人間的には本来良いことのはずです。そんな優しい気性をあざ笑う風潮は何なのか…という答えとして、このお話には悪魔が何度も登場します。
一番私達に身近な例として、親族での土地を巡る争いがありますね。イワンは欲張りな兄達にあっさり土地を分けてあげたため、悪魔は非常にガッカリします。悪魔にとって、喧嘩が起きて人が憎しみ合うことが、何よりの喜びなのです。このシーンを読んで、確かに人の振る舞いは何かに取りつかれているのでは、と思うことが多いなと思いました。
また、イワンのこの二人の兄は、他国を侵略するために兵隊を欲しがったり、お金をいくらでも欲しがったりします。これらの心理も、よく考えると本心から出たものでは無く、どこかの誰かの悪い考えのマネであることもあります。
欲の無い、真っすぐな性格のイワンをばかと言っているのは、悪魔でした。知らず知らずのうちに悪魔が取り付いて微笑んでいる状況が、今もあちこちにたくさんあるように感じます。
真に自分の心から出た考え方・行動であるかどうか、私自身も注意深く行動したいなと思いました。また、ばかと言われてもイワンのような生き方に魅力を感じるお話でした。