福永信『一一一一一』

まずこの本のタイトルは「いちいちいちいちいち」と読みます。
地の文はほぼなく、会話形式でストーリーが進んでいくのですが、それがまた非常に奇抜です。
どう奇抜なのかというと、語り手のセリフが物語の進行を握っていて、聞き手はそれに相槌をうつのですが、その相槌というのが「ええ」「そうですね」「そのとおりです」といった種類のものしかないからです。
これは会話形式にする意味があるのか?とも思いますが、それがまた奇妙な味わいを醸し出しています。
語り手は聞き手の物語を引き出して、物語を紡いでいくのですが、そのやり口がとても強引で、ほとんどこじつけに近い占いのような手法です。
なのでカテゴリは純文学ですが、証拠を必要としていない推理小説としても読めます。
6つの章立てになっていますが、辻褄も合うようになっています。会話形式なので、文章自体は難しくありません。
かなりサラサラと読めます。
しかし独特な「おかしみ」があるので、それを味わうためには丁寧に言葉を拾って注意深く読んでいく必要があります。
前田司郎さんと共通するテイストがあるので、前田さんがお好きであればこの作品も気に入ると思います。
本自体も薄いので、構えずに気楽に読んでクスリとすることができます。