20世紀イタリアの文豪イタロ・カルヴィーノの小説です。読みやすく、ユーモラスで、考えさせられる作品でした。
戦争で体がまっぷたつになってしまい、半身が完全なる悪に、もう一方の半身が完全なる善に分離してしまった子爵の物語です。
まっぷたつになってしまった子爵と普通の人との対比が非常におもしろく、完全な悪の側はもちろん善の側も、結局は人々に迷惑がられてしまうところに説得力を感じました。
人間にはふつう善と悪両方の面があるので悩んだり葛藤したりしますが、この子爵にはそのような悩みはありません。
たしかに、矛盾する感情がなければ悩みなんて起こらないと思います。でも人間には、例えば善いことを行おうと思っても、それを面倒に感じたりして善人になりきれない面があると思います。頭で正しいと思っていても、それをできないことが沢山あります。だから、善いことばかりする人がいると、それが正しいことなだけ余計に、とても煩わしく感じてしまうこともあります。
一方で、悪い欲望を抱いてもブレーキをかける善良な面があるのも人間で、そのブレーキが壊れた人は、本当に迷惑です。
人間には善い面と悪い面があって、それがバランスを取っているから、世の中は上手く回っているのかもしれないと感じました。
また、終盤で悪の側と善の側が行う決闘では、お互いの攻撃が、欠落した半分の側ばかりにいってしまって、相手に全く攻撃が当たらないという描写があり興味深かったです。
善の側は善を、悪の側は悪を攻撃しているということなのだと思いますが、人間の業のようなものを感じました。
この小説は、短めの内容で文章も分かりやすい表現で書かれているので気軽に読めます。しかし、とても深い内容を含んだ物語だと思いました。